新潟県水泳連盟 Niigata Swimming Federation

 続・水泳の指導者 林 利八

『水泳にいがた』2003 vol.8掲載文全編収録

 1.水泳指導者の基本的役割 
  2.技術だけの指導でよいのだろうか?
 (1)安全に関する知識  (2)社会に生きる生き方 

前項「水泳の指導者」はこちら

  1. 水泳指導者の基本的役割 

 前号では、水泳の指導が、安全に、かつ、効率的に推し進められるために、指導者が果たすべき役割について述べた。
 しかし、現実に水泳指導の現場では、死亡というような大きな事故はないにせよ、障害に苦しむ選手は決して少なくはないし、また、水泳に背を向けてしまう者もある。このことについて水泳指導者達は真剣に考慮しなければならない。

 水泳指導者は、速く上手に泳ぐ以前の問題として、水泳が好き、水中活動に魅力を感ずる人々を多くするということがその責務であることを忘れてはならない。

 腰や膝に障害が生ずるのは、明らかに運動の方法が適切でない、あるいは過度の練習によるものであることは論を待たない。
 特に小学校段階の子供達にハードトレーニングは適当ではない。小学生の身体的発達特性からすれば、筋肉、骨格、心肺機能などは未成熟であり、運動量の適否も個々により異なる。
 それに小学生の心理的な面からすると、一秒二秒という時間を縮めるということが動機づけにはなりにくい。小学生の段階では、水への関心を高めること、水中活動が楽しいという認識を深めること、より良いフォームづくりなどを目的としなければならない。

 県内外の小学生の大会のみならず、中学生、高校生の大会を見ると、こんなフォームでは記録の向上は望むべくもないという泳法が実に多い。フォームが悪ければ記録は伸びない、水泳が嫌いになるということになる。

 いうまでもなく、水泳は水の抵抗を利用して推進力を生み出し、進む力を妨害する抵抗をいかに少なくするかが課題である。そして、他の運動と大きく異なる点は、進むために手と足を使用することである。

 悪いフォームに共通している問題点は、泳ぎの基本姿勢ができていないことによるものが大勢を占めている。すなわち、浮きやすい姿勢ができていない、手や足を効率的に動かすことができない姿勢、呼吸するのに不適切な姿勢、どうして水泳の指導者たちがそんな基本を忘れているのだろうか。いかなるスポーツにおいても基本姿勢が重要とされている。

 顎を突き出して泳いでいる選手もかなり多い。相撲で顎が上がったら負ける。顎を突き出した姿勢では、押す、引く、持ち上げるなどの力は発揮できない。顎を締めた姿勢でなければ運動が成立しないというのが全ての運動に共通する。
 水泳は力学的法則に基づくという原則を大切にすることこそ、現代の水泳指導者が大切にしなければならないことである。小学生、初心者の段階でこのことを徹底して指導しておくことが重要である。

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  2. 技術だけの指導でよいのだろうか? 

 (1) 安全に関する知識

 水泳の技術を高めることは水中の安全能力を高めることにつながる。多くの水泳指導の展開を眺めると、安全への知識・技術を、指導の実際から省いている例が少なくない。
 対象者は、個人で、あるいは仲間と、海や湖、プールへと足を運ぶ。水中での安全に対する常識的な知識をもっと重要な取り扱い事項とするべきである。海やプールで遊泳する人々で準備運動を行う者は稀であり、流体での身の処し方を知らない泳者が実に多いことが望見される。

 安全の知識といっても、一回や二回の説明では理解されるものではない。繰り返し繰り返しが必要であり、休憩の時間を利用したり、印刷物を使用することも考えられるべきことがらである。
 心肺蘇生法、簡単な救助法も当然指導すべき内容である。

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 (2)
社会に生きる生き方
 

 あるとき、国体の選手団の宿舎を訪れたことがある。スリッパは入り口に脱ぎ捨て、立ったままコーチと話す選手、考えさせられるひとこまであった。現在はそんなだらしのない状態はないであろうが。

 ラグビーの強豪校、秋田工業高校の合宿、遠征にともなう話題を紹介したい。
 旅館であれ、学校であれ、掃除は起床と同時に行い、布団の上げ下ろしも生徒たち自身で行うのである。もちろんトイレの清掃も含まれている。
 指導者の哲学は、ラグビーを通して良い社会人をつくるということである。

 古橋 水泳連盟会長は、ことあるたびに選手のマナーについて言及される。
 確かに、速ければ評価される競技の世界、でも選手は引退すれば一社会人、水泳の選手ということでは生きていけない。一社会人として通用する人間性を育むことが指導者に与えられる任務といえよう。

 同じく国体で本県選手団が観客席に新潟県と書いた紙切れで場所とりをしていたことがあるが、一般の観客がいった言葉を忘れられない。「県の名前を書くとはいい度胸だ。監督の顔が見たい」と。

 国際大会での表彰式で古橋会長が激怒されたことがある。それは、他国の国旗掲揚、国歌の演奏時に、日本選手が談笑していたことによるものであった。

 あるスイミングでの練習終了時、コーチに挨拶する子供達の殆どの目はコーチに向けられていなかった。ただ慣習的なものであれば問題である。人の目を見て話す、挨拶する、こんな常識的なことがらができるスイミングの子供達であって欲しい。

 水泳教室、スイミングクラブでの生活を通して立派な社会人を育てることも水泳指導者の役割ではなかろうか。

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                    (新潟県水泳連盟副会長)

[おことわり] 一部、ブラウザー上で読みやすいように手を加えてあります。
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